今日も携帯がブルッた。開くと、いつものメッセージが表示される。
「おはー」
続けざま、またブルッときて
「今日も一日ガンバってこー」
なんて言えばいいか。文末に伸ばし棒が、僕の文通相手のクセだ。
うん、とだけ入れて返す。
「うわー!」
「今日も早いねー」
「すごいよー!」
中身の無いメッセージで続々とブルる。
確認してみると、AMの5時23分。時計がずれてないなら確かに早い方だが、すごいってことはない。夜にしたいことも無いし、早く寝てるってだけだ。
そう思っているってことを、今日はちゃんと伝えておくことにした。
「すごいことはない。早く寝てるってだけ」
「そうかなー」
「ちゃんと寝てるってのもすごいよー」
「昼も夜も意味なくなってるもん、わたしは」
気持ちはわかる。でも、これもクセみたいなものだ。
「俺はあえて意味を付けることにしてるよ。昼は歩くって決めてある。でないと、バラバラになるだろ」
「バラバラって?」
「心と体のリズムみたいなものが」
「頭いいねー」
「よくない。臆病ってだけ」
そう、何がどうであれ、今日も一日は始まる。携帯を充電器から外して、バックパックに荷物をまとめる。屈伸運動もしてみる。ペキペキと関節が鳴る。すっかり運動不足だ。まるでおじいさんになったみたいなストレッチの間にも、携帯はブルブルと鳴り続けている。
これでもスポーツは好きな方で、僕はサッカー部だった。とは言え、相手がいなけりゃ仕方ない。すっかり白くなった道に、本日も第一歩を踏み出す。
風が吹くと灰が撒きあがって、目に入ると痛い。
僕の携帯によると5月30日ってことだが、ひどく寒いし、雪みたいなのも降ってる。
西暦は2028。
オヤジは10年が経過すると言っていた。実際にその通りの年なわけだが、五月でこの調子だと、ちょっと怪しい気もする。
そもそもだ、一番の肝心なところで、オヤジは大きく間違えていた。
「10年やそこらで大しては変わらん。このバカげた戦争が終わってるってだけだ」
そしておそらくは10年後。僕が目覚めた世界は灰だらけだった。確かに戦争は終わったのだろうが、他の色々も終わってるって感じだった。
コンビニの自動扉をカチ割って、本日の朝食を物色する。缶詰のあたりならまぁいけるってことが分かっているので、今日は勇気を出して鯖缶としゃれこむ。
気分快晴とはいかないところに、届くようになったのがあのメッセージだ。
ひとしきりブルッていた携帯が今はおとなしくなってる。なんだかかわいそうになって開けてみた。
「そっちの天気はどー?」
写真を撮って、送ってやることにする。
「今日は鯖缶の気分」
人のいない街なんか面白くもない。
鯖缶は美味しかった。
<続く>