2017年10月21日土曜日

東映動画のジャスティスチェイス_01

2017年10月、大きな変革が巻き起こった。
約20年続いた、テレビ朝日系列ヒーロー番組の時間変更である。

「スーパー戦隊シリーズ」は、日曜7:30から同9:30スタートに。
「平成仮面ライダーシリーズ」は、日曜8:00から同9:00スタートに。

さて、移動先である日曜9:00台の枠には強力な裏番組が存在する。
「ドラゴンボール超」「ワンピース」というフジテレビ系列のアニメ群だ。

これだけの情報で「はて?」と首を傾げた方がいたなら敬服する。
そう、ぶつかり合う4番組はいずれも東映系列制作。メインスポンサーはバンダイである。

バンダイナムコホールディングス2018年3月期 第一四半期決算短信 補足資料より



上の通り、前述の4番組はいずれもバンダイナムコグループの5本指に数えられる巨大IPである。
それらが一堂に同時間帯に集結。視聴者は、愛するヒーロー達に優先順位をつける必要に迫られる。

私はこれを機に、各放送枠が掲げる正義について改めて整理、考察を行おうと思う。
愛するヒーロー達が背負ってきた歴史を振り返り、未来を見通すために。

①テレビ朝日系列日曜9:00枠
枠移動後の第一作:仮面ライダービルド


はじめに語るのは「平成仮面ライダーシリーズ」でお馴染みの枠である。
「仮面ライダー」は1970年代の変身ブームを築き上げた、特撮ヒーローの代表選手だ。

しかし、放送枠としては今回語る4枠の中で最も迷走を重ねてきた枠であると言える。
この枠での最初の東映制作作品は「がんばれ!!ロボコン」(1974)だ。


変身ブーム真っ只中、時流に乗って生まれたのが当時金曜夕方19:30スタートの枠である。
以降も石ノ森章太郎原作の実写番組を続けるが商業的な成功には中々結びつかなかった。

徐々にジリ貧になっていくこの枠に登場したヒーローこそ「宇宙刑事ギャバン」(1982)だ。
続く「宇宙刑事シリーズ」も大ヒット。以降「メタルヒーローシリーズ」と呼ばれ人気を呼ぶ。


しかし、栄華も長くは続かない。1989年4月、「機動刑事ジバン」放送中に日曜7:30に左遷。
「メタルヒーローシリーズ」も1999年1月を最後に、終わりを迎える結果を迎えてしまう。

その後「燃えろ!!ロボコン」「仮面ライダークウガ」と苦し紛れとも言えるリメイク商法に着手。
「クウガ」の人気に便乗する形で仮面ライダーを続けるうちに、気がつけば現在に至るのだ。



では、現在の「平成ライダーシリーズ」が枠として抱える正義とは何なのか。
批判を恐れずに言えば、枠としての正義など持ち合わせていないのだ。

時流の影響を受けながら革新していく。
そんな《迷走する正義》こそ、この枠最大の特徴である。

②テレビ朝日系列日曜9:30枠
枠移動後の第一作:宇宙戦隊キュウレンジャー


前番組とは打って変わり、この枠は非常に安定している。
単一シリーズとして40年以上途絶えない歴史を持つ強い伝統を持つ枠だ。

ネット局が変わり「仮面ライダー」が放映できなくなった代打として用意された東映ヒーロー。
それこそが「スーパー戦隊シリーズ」の祖、「秘密戦隊ゴレンジャー」(1975)である。



東映版「スパイダーマン」を経た「バトルフィーバーJ」(1979)以降、今日まで続く番組だ。
土曜19:30から度々時間帯を変更し、1997年4月以降日曜7:30の時間に長く滞在し続けた。

「仮面ライダー」との差別化としての複数ヒーロー。
「スパイダーマン」商業的成功の要、巨大ロボ。

※日本のスパイダーマンは巨大ロボに搭乗した



これらのフォーマットを持った上で、侵略者から人類の平和を守る戦士達。
これを堅実に守り抜くのがこの枠だ。愛すべきマンネリこそ、テレビ番組としての安定である。

故にこの枠の正義は単純明快、《平和を守る》ことである。

③フジテレビ系列日曜9:00枠
現行作品:ドラゴンボール超



この枠の祖先は東映制作の実写「不思議コメディシリーズ」(1981-)である。時間移動は一切ない。
「宇宙刑事ギャバン」とほぼ同時期、変身ブームの次世代ヒーローを生み出すことが求められた。


「メタルヒーローシリーズ」同様、この枠も手を替え品を替え枠の継続を模索していく。
そして1993年、この枠は東映系列の東映動画(現東映アニメーション)によるアニメ枠となる。

主な放映作品は「ゲゲゲの鬼太郎」「デジモンシリーズ」「金色のガッシュベル」「トリコ」など。
いずれも4クール(=1年)単位で放送枠が確保された長期アニメである。



時間帯の変更を迎えることなく今日に至るこの枠も一見、共通する正義などないように思われる。
しかし、商業的に見ると共通している点を見出していくことができる。

”長期に渡って番組を続けることで、キャラクターIPとして定着させ商品価値を向上させる”

先に述べた枠を見てきた今、特段珍しいことでは無いように感じられてしまう。
しかし、この手法が今日に至るまで続いている全国ネットの枠はもはや稀有な存在だ。

現在、この枠で放映されている「ドラゴンボール超」にかけるスポンサーの期待値は高い。
最初に引用した決算資料では今年、「ガンダム」を超える稼ぎ頭となることを期待されている。

関連商品の売り上げが高いのは、視聴者の支持を受けているという分かりやすい証拠でもある。
制作側や関連企業、そして視聴者。《みんなの期待に応える》ことが、この枠が掲げる正義なのだ。

④フジテレビ系列日曜9:30枠
現行作品:ワンピース



この枠は日本初のカラーテレビアニメ「ジャングル大帝」(1965)に始まる伝統あるアニメ枠だ。
水曜19:00枠として「ドラゴンボールシリーズ」「ドクタースランプシリーズ」などを放送。



鳥山明による漫画作品を原作に20年放送。そしてワンピースは現在18年目だ。
40年近くの間、週刊少年ジャンプ看板漫画を宣伝する枠として機能していると言える。

少年漫画のトップを走る少年ジャンプの看板とは即ち、少年にとってトップのヒーローと言える。
幅広い世代に広く認知されている国民的ヒーロー番組が求められる枠なのだ。

この枠に求められているのは単純明快。《日本で一番有名な人気者》であることだ。

したがって内容の変更は少ない。しかし、漫画やアニメという分類の価値が時間帯変更につながる。
かつてはゴールデン番組だったこの枠も「ワンピース」放映中に三度時間帯を変更している。

此度の時間帯変更で「スーパー戦隊シリーズ」が裏番組となる「ワンピース」の真価が問われる。

ここで各枠の正義を改めて振り返ってみよう。

・テレビ朝日系列日曜9:00枠 迷走する正義
・テレビ朝日系列日曜9:30枠 平和を守る
・フジテレビ系列日曜9:00枠 みんなの期待に応える
・フジテレビ系列日曜9:30枠 日本で一番有名な人気者

こうして並べて見ると、前2つは制作会社(=東映)が掲げる正義という点で共通している。
一方で後2つは、関連企業であるスポンサーや出版社の要請が強く反映されているのが分かる。

そこにはオリジナル作品か否かの違いも当然あるだろう。
では、東映アニメーションが正義を掲げる枠は存在しないのか。

結論から言おう。存在する。
テレビ朝日系列でありながら、此度の番組編成でも移動しなかったヒーローがいる。

今回は紹介を見送るが、次の機会にはあのヒーロー達を紹介することを約束しよう。
ヒーローを愛する者として。




Edaon